情報処理試験を勉強していると、「HPC って結局何?スーパーコンピュータと何が違うの?」と疑問に思う場面があります。この記事では、HPC(High Performance Computing)の意味と仕組みを、身近な例え話と図解で整理します。

対象試験と出題頻度

HPCは、基本情報技術者・応用情報技術者のシラバスに掲載されている用語です。

応用情報では「HPCマシンの更新」に関する計算問題が繰り返し出題されており、ノード数や理論ピーク演算性能を求める問題が定番です。

詳細をクリックして確認
対象試験:
基本情報技術者
応用情報技術者
出題頻度:
★★★☆☆
ランクC(応用)余裕があれば覚える

用語の定義

HPC(High Performance Computing:ハイパフォーマンスコンピューティング)とは、一言で言うと

 「大量の計算を、複数のプロセッサやノードで並列に処理して高速に実行するコンピューティング技術

のことです。

イメージとしては、100人で手分けして一斉に採点する全国模試です。

1人の採点官が100万枚の答案を1枚ずつ採点すると何年もかかりますが、100人で分担すれば1万倍近く速く終わります。HPCはこれと同じ発想で、膨大な演算を大量のプロセッサに分散させて一気に処理します。

📊 HPCの基本情報

項目 内容
英語名 High Performance Computing
日本語名 ハイパフォーマンスコンピューティング(高性能計算)
シラバス上の分類 テクノロジ系 > コンピュータシステム > システム構成要素
性能指標 FLOPS(1秒あたりの浮動小数点演算回数)
代表例 スーパーコンピュータ「富岳」、クラスタシステム

解説

天気予報の精度を上げるには、地球の大気を格子状に分割して数値シミュレーションを行います。

格子を細かくするほど精度は上がりますが、計算量は爆発的に増えます。1台の一般的なコンピュータでは何日もかかる処理を数時間で終わらせなければ、予報としての意味がありません。

こうした「高精度かつ大規模な演算を現実的な時間で完了させたい」というニーズに応えるのがHPCです。

HPCを支える3つの技術要素

HPCは1つの技術ではなく、複数のハードウェア・ソフトウェア技術の組み合わせで成り立っています。中核となる要素は次の3つです。

HPCを構成する3つの技術要素

🖥️

高性能プロセッサ

マルチコアCPUやGPUなど、1チップあたりの演算能力が高いプロセッサ

🔗

高速ネットワーク

ノード間のデータ転送遅延を最小化するインターコネクト(InfiniBandなど)

⚙️

並列処理ソフトウェア

計算タスクを分割してノードに分配し、結果を集約するミドルウェアやライブラリ

HPCの実現形態

HPCを実現するシステムの代表的な形態は、スーパーコンピュータとクラスタシステムの2種類です。

スーパーコンピュータは、専用設計のハードウェアで極限の演算性能を追求した1台(または1システム)の大型計算機です。日本の「富岳」が代表例で、442PFLOPSの理論ピーク演算性能を持ちます。

一方、クラスタシステムは汎用サーバー(ノード)を多数台LANで接続し、1つの大きな計算資源として束ねる構成です。スーパーコンピュータほどの単体性能はありませんが、ノードを追加すればスケールアウトでき、コスト面で有利です。

比較項目 スーパーコンピュータ クラスタシステム
設計思想 専用設計で最大性能を追求 汎用サーバーを束ねて性能を確保
拡張性 設計時に決定、後から拡張しにくい ノード追加でスケールアウト可能
コスト 非常に高額(数百億〜数千億円規模) 比較的安価に構築可能
代表例 富岳(日本)、Frontier(米国) Beowulfクラスタ、HPCクラウド

図解:HPCシステムの構成イメージ

HPCクラスタの構成イメージ

ジョブスケジューラ(タスクの分配・管理)
⬇ ⬇ ⬇ ⬇

🖥️

ノード1

CPUコア × n個

🖥️

ノード2

CPUコア × n個

🖥️

ノード3

CPUコア × n個

🖥️

…ノードN

CPUコア × n個

高速インターコネクト(InfiniBandなど)

▲ 各ノードがネットワークで接続され、ジョブスケジューラが計算タスクを各ノードに分配する

理論ピーク演算性能の計算式

HPCの性能を測る代表的な指標が「理論ピーク演算性能」です。

これは、すべてのコアが最大効率で動作した場合の演算回数の上限値を表します。計算式は次の通りです。

理論ピーク演算性能の計算式

総理論ピーク演算性能 = ノード数 × 1ノードあたりのコア数 × 1コアあたりの演算性能

※ 演算性能の単位はFLOPS(GFLOPS、TFLOPSなど)

この計算式は試験の計算問題で直接使います。では、実際に試験でどのように出題されるか見ていきましょう。

💡 HPCの核心を3行で

・大量の演算を複数ノードで並列処理して高速に実行する技術の総称
・実現形態はスーパーコンピュータ(専用設計)とクラスタシステム(汎用サーバーの集合)
・性能指標はFLOPSで、「ノード数 × コア数 × コアあたり演算性能」で算出する


試験ではこう出る!

HPCは応用情報技術者試験の午前問題で、同一構成の計算問題が繰り返し出題されています。基本情報技術者では用語としてシラバスに記載されているものの、直接的な出題頻度は高くありません。

📊 過去問での出題実績

試験回 出題内容 問われたポイント
AP H21秋
午前 問14
HPCマシンの更新後のノード数と総理論ピーク演算性能を求める計算問題。 ・コア数、ノード数、演算性能の関係
・単位換算(GFLOPS → TFLOPS)
AP H28春
午前 問13
H21秋 問14と同一構成の問題(流用)。 ・過去問の再利用パターン
AP R2秋
午前 問12
同一構成の問題(3回目の出題)。 ・同一の計算手順で解ける
・数値は過去問と完全一致
AP R7秋
午前 問11
同一構成の問題(4回目の出題)。 ・過去問を解いていれば即答可能

📝 IPA試験での出題パターン

パターン:「更新後のノード数と総理論ピーク演算性能を求めよ」
問題文に「現状のHPCマシンの構成」と「更新条件」が提示され、更新後の値を選択肢から選ぶ形式です。解法は次の3ステップで固定されています。

① 更新条件を反映して「1コアの演算性能」「1ノードのコア数」「総コア数」を計算する
② 総コア数 ÷ 1ノードのコア数 で「更新後のノード数」を求める
③ 総コア数 × 1コアの演算性能 で「総理論ピーク演算性能」を求め、単位を変換する

 

ここだけは確実に押さえてください。4回とも同じ問題構成なので、過去問を1回解けば本番でも確実に得点できます。HPCの概念そのものを問う知識問題は出題されていないため、深追いは不要です。

計算例:AP R2秋 午前 問12の解法

何となくで覚えたい人向け:計算の流れを確認

【現状の構成】

1コア = 10GFLOPS / 1ノード = 8コア / ノード数 = 1,000

【更新条件】

① 1コアの演算性能を2倍 → 10 × 2 = 20GFLOPS
② 1ノードのコア数を2倍 → 8 × 2 = 16コア
③ 総コア数を4倍 → (1,000 × 8) × 4 = 32,000コア

【更新後のノード数】

32,000 ÷ 16 = 2,000ノード

【更新後の総理論ピーク演算性能】

32,000 × 20 = 640,000GFLOPS = 640TFLOPS


【確認テスト】理解度チェック

ここまでの内容を理解できたか、簡単なクイズで確認してみましょう。


Q. HPC(High Performance Computing)の説明として、最も適切なものはどれでしょうか?

  • A. ネットワーク上に分散する未使用の計算資源を集めて、一つの大きな仮想コンピュータとして利用する仕組み。
  • B. システムの一部に障害が発生しても、全体としてのサービス提供を継続するための冗長構成技術。
  • C. 複数のプロセッサやノードを用いて大量の計算を並列に処理し、高精度な高速演算を実現するコンピューティング技術。

正解と解説を見る

正解:C

解説:
HPCは、大量の演算をプロセッサやノードの並列処理によって高速に実行する技術です。IPAのシラバスでも「高精度な高速演算を必要とする分野で利用される」と定義されています。

選択肢Aはグリッドコンピューティングの説明です。グリッドコンピューティングはネットワーク上の遊休資源を束ねる点に特徴があり、HPCのように専用ハードウェアで最大性能を追求する考え方とは異なります。選択肢Bはフォールトトレランス(耐障害性)の説明です。冗長構成によるサービス継続はシステムの信頼性に関する概念であり、演算性能の向上を目的とするHPCとは目的が異なります。


よくある質問(FAQ)

Q. HPCとクラウドコンピューティングは何が違いますか?

HPCは「大量の計算を高速に処理する」ことに特化した技術であり、クラウドコンピューティングは「計算資源をインターネット経由でオンデマンドに提供する」サービスモデルです。両者は排他的ではなく、AWS、Azure、Google Cloudなどのクラウドベンダーが「HPCクラウド」としてHPC向けのインスタンスを提供しており、クラウド上でHPCを実行する利用形態も広がっています。

Q. HPCはどのような分野で使われていますか?

気象予報の数値シミュレーション、新薬開発における分子動力学計算、自動車の衝突シミュレーション、金融リスク分析、AI・ディープラーニングのモデル訓練など、大規模な数値計算が必要な分野で広く使われています。近年はAI分野での需要が急拡大しており、GPUを大量に搭載したHPCシステムが主流になりつつあります。

Q. GFLOPSとTFLOPSの単位換算がわかりません。

FLOPSの接頭辞はSI接頭辞に準じます。1TFLOPS(テラフロップス)= 1,000GFLOPS(ギガフロップス)です。試験の計算問題では最終的にTFLOPS単位で解答を選ぶケースがあるため、GFLOPSで算出した値を1,000で割ってTFLOPSに変換する手順を忘れないでください。さらに上の単位として1PFLOPS(ペタフロップス)= 1,000TFLOPSがあり、スーパーコンピュータの性能はPFLOPS単位で語られます。

Q. HPCとGPGPUの関係は?

GPGPU(General-Purpose computing on GPU)は、本来画像処理用のGPUを汎用計算に転用する技術です。GPUは数千個の小さなコアを持ち、単純な演算を大量に同時実行できるため、HPCの演算アクセラレータとして広く採用されています。現在のHPCランキング上位のシステムの多くがGPUを搭載しており、HPCを支える中核技術の一つです。