対象試験と出題頻度

ファストトラッキングは、応用情報技術者(AP)の午前で出題されるテーマです。

プロジェクトマネジメントのスケジュール短縮技法として定番化しており、「クラッシング」との違いを正確に区別できるかが繰り返し問われます。

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対象試験:
応用情報技術者
出題頻度:
★★☆☆☆
ランクC(応用)余裕があれば覚える

用語の定義

情報処理試験を勉強していると、「ファストトラッキングって結局クラッシングと何が違うの?」と混乱しがちです。ここで一度、言葉の意味をはっきりさせておきましょう。

ファストトラッキング(Fast Tracking)とは、一言で言うと

 「本来は順番に行う予定だったアクティビティを並行して実施し、スケジュールを短縮する技法

のことです。

イメージとしては、引っ越し当日の段取りです。

本来なら「荷造り → 運搬 → 荷ほどき」と順番にやるところ、引っ越し業者が運搬を始めた裏で、あなたは新居の片付けや家具配置の計画を進めますよね。

完全に終わるのを待たず、できる作業を同時に走らせる。これがファストトラッキングの発想です。

📊 ファストトラッキングの基本情報

項目 内容
英語名 Fast Tracking
分類 スケジュール短縮技法(PMBOK)
追加コスト 原則なし(人員や資金を追加しない)
主なリスク 手戻り(後続作業の前提が崩れる可能性)

解説

プロジェクトの現場では、「納期に間に合わない」「クリティカルパスが長すぎる」という事態が頻繁に起こります。

このとき、追加予算をかけずに工期を縮める手段として登場するのがファストトラッキングです。

PMBOKでは、スケジュール短縮技法(Schedule Compression)として「クラッシング」と並んで紹介されています。クリティカルパス上のアクティビティに対して適用するのが原則です。

通常スケジュール vs ファストトラッキング

「設計 → 開発 → テスト」と順番に進める計画を、設計が完了する前に開発を着手し始めるパターンで図示します。

スケジュール比較(横軸:時間)

▼ 通常のスケジュール(直列)

設計(3日)
開発(4日)
テスト(3日)

→ 合計:10日

▼ ファストトラッキング適用後(並行)

設計(3日)
開発(4日)
テスト(3日)

→ 合計:7.5日(2.5日短縮)

※ 設計が完了する前に開発を始め、開発の途中からテストを開始する

クラッシングとの違い

試験で最も狙われるのが、もう一つのスケジュール短縮技法である「クラッシング」との対比です。

両者は目的こそ同じですが、アプローチがまったく異なります。

観点 ファストトラッキング クラッシング
手法 作業を並行実施する 資源(人員・残業など)を追加投入する
追加コスト 原則なし あり(人件費・外注費が増える)
主なリスク 手戻り発生のリスクが上がる コスト増、品質低下、要員疲弊
キーワード 「並行」「同時進行」「順番を組み直す」 「資源追加」「要員投入」「残業」

覚え方は単純で、「お金をかけずに段取りで何とかする」のがファストトラッキング、「お金や人手で殴って解決する」のがクラッシング、と整理すれば混同しません。

では、この用語が試験でどのように出題されるか見ていきましょう。

💡 ファストトラッキングの核心を3行で

・順番に行う予定だった作業を並行実施してスケジュールを短縮する技法
・追加コストは発生しないが、手戻りリスクが上がる
・対義語的存在のクラッシング(資源追加)とセットで覚える


試験ではこう出る!

ファストトラッキングは応用情報技術者の午前で繰り返し出題されている定番テーマです。出題パターンは大きく2つに分かれます。

📊 過去問での出題実績

試験回 出題内容 問われたポイント
AP R6秋
午前 問54
プロジェクトマネジメントにおけるファストトラッキングの例として適切なものを選ぶ。 ・「アクティビティを並行に実施する」が正解
・資源追加(クラッシング)の選択肢がひっかけ
AP H26秋
午前 問54
クリティカルパス上の作業に”ファストトラッキング”技法を適用した対策を選ぶ。 ・「先行作業の完了を待たず後続作業を並行実施」が正解
・要員追加・残業・外注はクラッシング
AP H25春
午前 問51
ファストトラッキングの説明として正しいものを選ぶ。 ・「順番に行う予定の作業を並行に行う」が正解
・他の選択肢はクラッシングや進捗管理技法
AP R1秋
午前 問53
スケジュール短縮技法の選択肢の中からファストトラッキングを識別する。 ・「アクティビティの並行実施」がキーワード
・資源追加による短縮はクラッシング

📝 IPA試験での出題パターン

パターン1:「ファストトラッキングの説明/例を選べ」
4つの選択肢から正しい説明を選ぶ形式。ひっかけとして「要員を追加投入する」「残業させる」「外注に出す」などのクラッシングの説明が必ず混ざる。キーワードは「並行」「同時実施」「順番を組み直す」の3つ。これさえ覚えていれば正答できます。

 

パターン2:「クリティカルパス上の対策」
クリティカルパス上のアクティビティに適用する短縮策として、ファストトラッキングを選ばせる形式。AP H26秋がこの典型。「先行作業の完了を待たずに後続作業を始める」と書かれていればファストトラッキング、「人を増やす・残業させる」と書かれていればクラッシングです。

 

ここだけは確実に押さえてください。手戻りリスクの細かい計算やPMBOKの版ごとの差異までは問われないので、深追いは不要です。


【確認テスト】理解度チェック

ここまでの内容を理解できたか、簡単なクイズで確認してみましょう。


Q. プロジェクトマネジメントにおけるファストトラッキングの説明として、最も適切なものはどれでしょうか?

  • A. クリティカルパス上のアクティビティに対し、要員を追加投入したり残業を増やしたりして所要期間を短縮する。
  • B. 本来は順番に実施する予定だったアクティビティを並行して進めることで、プロジェクト全体のスケジュールを短縮する。
  • C. プロジェクトの進捗を計測するため、実績値と計画値の差異をコストと時間の両面から定量的に分析する。

正解と解説を見る

正解:B

解説:
ファストトラッキングは、直列で計画していた作業の順序を組み直して並行実施することでスケジュールを縮める技法です。追加の資源を投入しない点が最大の特徴です。

選択肢Aはクラッシングの説明です。要員追加や残業など、コストをかけて期間を圧縮する手法であり、ファストトラッキングとは異なるアプローチです。選択肢はEVM(アーンドバリューマネジメント)の説明です。進捗とコストの差異を分析する技法であり、スケジュール短縮技法ではありません。


よくある質問(FAQ)

Q. ファストトラッキングはどんなときに使うべきですか?

追加予算が確保できず、なおかつ作業の前後関係に「絶対に直列でなければならない」という強い依存がない場合に有効です。例えば「詳細設計が80%完了した段階で、固まった部分から開発に着手する」といった運用です。逆に、先行作業の出力が後続作業の入力に完全に必要なケース(例:基本設計のアーキテクチャが決まらないと開発できない部分)では、無理に適用すると手戻りでむしろ遅延します。

Q. ファストトラッキングとクラッシングはどちらを先に検討すべきですか?

PMBOKの考え方では、コスト増を伴わないファストトラッキングを先に検討するのが基本です。それでも短縮量が足りない場合や、並行実施できる作業がない場合に、コストをかけてでも縮めるクラッシングを選択します。実務では両者を組み合わせて適用することも珍しくありません。

Q. ウォーターフォール開発でもファストトラッキングは使えますか?

使えます。むしろウォーターフォールは工程が直列に並ぶため、ファストトラッキングの効果が出やすい開発モデルです。例えば「詳細設計の一部完了をもって、その範囲のコーディングを開始する」「結合テストの準備を開発工程と並行して進める」など。アジャイル開発では工程自体が並行化されているため、ファストトラッキングという概念をあえて持ち出す場面は少なくなります。

Q. ファストトラッキングを多用するとなぜ手戻りが増えるのですか?

先行作業がまだ完了していない状態で後続作業を始めるため、先行作業側で仕様変更や設計修正が発生すると、それを前提に進めていた後続作業もやり直しになるからです。例えば設計が固まる前に開発を始め、後から設計が変わると、すでに書いたコードを修正する手間が発生します。短縮した期間より手戻りで失う期間のほうが大きくなるリスクがあるため、適用範囲の見極めが重要です。