冷蔵庫に卵が6個と牛乳が400ml。パンケーキとオムレツを何個ずつ作れば、家族が一番喜ぶでしょうか。材料の上限が決まっている中で「何をどれだけ作るか」を決める――この日常の悩みを数式で解くのが線形計画法です。漢字の並びは重々しいものの、中身は中学レベルの一次式と代入計算にすぎません。
線形計画法の対象試験と出題頻度
「グラフを描く問題だから時間がかかりそう」と身構えて、この分野を捨てている受験生は少なくありません。ですが実際の出題は、計算がまったく不要なタイプが半分以上を占めています。
出題元はストラテジ系の「企業活動 > 業務分析・データ利活用」。FE・APともに午前(科目A)で数年に一度のペースで顔を出す、頻出度Bの用語。出題は手法名を選ばせる型と最大利益を計算させる型の2系統に分かれており、前者は15秒で片づく得点源になります。ITパスポートの出題範囲には含まれません。
出題情報を確認する
基本情報技術者試験(FE)
応用情報技術者試験(AP)
★★★☆☆
頻出度B(標準・数年に一度の出題)
線形計画法の定義
「線形」も「計画」も日常語なのに、2つ並ぶと途端に意味がつかめなくなる。この用語で最初につまずくのは、たいていその語感の部分ではないでしょうか。
ここでの「線形」は、変数が1乗だけで登場する一次式(グラフにすると直線)を指します。第二次世界大戦中の物資輸送計画を起点に発展し、現在ではオペレーションズリサーチ(OR)の中核的な手法として定着した考え方。
線形計画法とは、
「一次式で表された制約の中で、目的の一次式を最大化または最小化する解を求める手法」
です。
飲食店に置き換えると、仕入れた食材の量が「制約」、その日の売上が「目的」にあたります。ランチとディナーの品数をどう振り分ければ売上が最大になるか。食材が尽きるまで作れるわけではない、という当たり前の縛りを数式に落とし込んだものが制約条件になります。
📊 線形計画法の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 英語表記 | Linear Programming(LP) |
| 目的関数 | Z = ax + by → 最大化(または最小化) |
| 制約条件 | c₁x + c₂y ≦ R(資源の上限)を資源の数だけ立てる |
| 非負制約 | x ≧ 0, y ≧ 0(マイナスの生産はあり得ない) |
| 解の位置 | 実行可能領域(多角形)の頂点=端点のいずれか |
| 代表的な解法 | 図解法(変数2個)/単体法(シンプレックス法・変数3個以上) |
線形計画法の仕組みを3点セットで理解する
目的関数・制約条件・非負制約という3点セット
線形計画問題は、必ず次の3つの部品でできています。何を最大にしたいかを表す式が目的関数、使える資源の上限を表す不等式が制約条件、そして生産量がマイナスにならないことを保証するのが非負制約。
目的関数に置くのは利益額が定番ですが、コストや輸送距離を最小化する形もあります。ROIのような投資効率の指標を最大化の対象に据えることも実務では珍しくありません。「最大化なら目的関数、上限なら不等号」という対応さえ崩れなければ、立式で迷うことはないはずです。
表を式に変換する読み替えルール
試験問題は必ず「表」の形で与えられます。表の行が制約条件1本ぶん、最終行の利益が目的関数の係数――この対応だけ覚えておけば、機械的に数式へ変換できます。製品Aの生産量をx、製品Bの生産量をyと置くのが定石。
📊 制約条件整理表(数値例)
| 資源 | 製品A(x) | 製品B(y) | 1日の上限 |
|---|---|---|---|
| 原料P | 2kg | 4kg | 16kg |
| 設備時間 | 3時間 | 2時間 | 12時間 |
| 1単位あたり利益 | 5万円 | 4万円 | ― |
2x + 4y ≦ 16(原料P)
3x + 2y ≦ 12(設備時間)
x ≧ 0, y ≧ 0(非負制約)
Z = 5x + 4y → 最大化(目的関数)
なぜ答えは「端点」に現れるのか
制約をすべて満たす点の集まりを実行可能領域と呼び、一次式だけで囲まれたその形は必ず多角形になります。目的関数 Z = 5x + 4y は、Zの値を変えながら平行移動する直線。この直線を利益が増える向きへずらしていくと、多角形から離れる直前に必ず頂点(端点)で接します。
だからこそ、領域の内側を調べる必要はまったくありません。頂点だけを総当たりすれば最適解に届く、という性質が計算量を劇的に減らしてくれます。
製造業の生産管理システムの改修に入ったとき、「今月どの製品を何個作るか」は裏でExcelのソルバーや最適化ライブラリが解いていました。手で連立方程式を解く場面はまずありません。ただ、業務部門が「時間の制約を1本足したい」と言った瞬間に、それが制約条件の追加を意味すると理解できるかどうかで要件定義の会話速度は変わります。SCM領域の在庫計画や配車計画でも、同じ構造が顔を出しました。
📝 ポイント整理
・表の1行=制約条件1本。最終行の利益が目的関数の係数になる
・不等号は資源の上限なので原則「≦」。非負制約だけが「≧」
・最適解は実行可能領域の頂点にしか現れない。内部は調べなくてよい
試験ではこう出る!線形計画法の出題パターン
📝 IPA試験での出題パターン
パターン1:手法名選択型(確認できた7問中4問)
製造時間や原料量の表を見せたうえで「最大の利益を得る生産量を求めるのに適切な手法はどれか」と問う。表の数値を計算する必要は一切なく、選択肢を読むだけで答えが決まるボーナス問題。目標所要時間は15秒。
パターン2:定式化選択型(同1問)
数式そのものが選択肢に並ぶ。計算は不要な代わりに、不等号の向きと係数の対応を正確に読む必要がある。
パターン3:最大利益計算型(同2問)
連立方程式または端点の総当たりを実際に行う。APの近年の出題はこの型に寄っており、FEより計算負荷が高い。
確認済みの過去問実績(FE・AP 全7件)を見る
FE 平成16年秋期 問78:製品A・B・Cの製造時間・原料所要量・利益額の表から、最も高い利益が得られる生産量を求める手法を選ぶ(正解:ウ)
FE 平成24年春期 問75:製品A・Bの原料所要量と利益から、最大利益を求める線形計画問題として正しい定式化を選ぶ(正解:イ)
FE 平成25年春期 問76:原料16kg・設備12時間の制約下、利益5万円/4万円のときの1日の最大利益を求める。答えは22万円(正解:ウ)
FE 令和3年度(午前免除・令和3年1月)問77:平成16年秋期問78と同型の手法選択問題(正解:ウ)
AP 平成30年秋期 問76:月間製造時間240時間・原料150kgの制約下で最適生産量を求める手法を選ぶ(正解:ウ)
AP 令和3年秋期 問76:部品A120個・B60個の制約下、製品X・Yの利益が同額のときの最大利益45万円を求める(正解:ウ)
AP 令和7年秋期 問77:機械年間15,000時間・固定費15,000,000円のもとでの最大営業利益7,500,000円を求める(正解:イ)
なおFE平成16年秋期問78は、初級システムアドミニストレータ平成16年秋期問73・平成18年秋期問73、令和3年度午前免除試験問77としても再出題されています。同一問題が20年にわたり使い回されている典型例です。
ひっかけ選択肢の傾向と対策
手法名選択型では、移動平均法・最小二乗法・定量発注法が固定の当て馬として並びます。どれも「表やグラフが絡む数量系の手法」なので、語感だけでは切れません。逆に言えば、この4語の役割を覚えるだけで確実に1点を取れる構造。
計算型で用意される誤答は、①交点だけを計算した値、②片方の製品に全振りした値、③固定費を引く前の売上総利益、の3種類。自分の計算結果が選択肢にあった=正解、とは限りません。FEは4語の暗記で足り、APは端点の総当たりを手順として身体に入れておく。区分によって必要な準備量が違う点に注意してください。
グラフを描かずに解く「端点3点代入法」と4つの落とし穴
初受験のとき、方眼紙のつもりで座標軸を描き始めて3分を溶かしました。
2回目からは「制約2本なら候補は3点しかない」と割り切り、交点と両軸の端点を目的関数に代入するだけに変えたところ、40秒で終わるようになりました。
グラフは理解のための道具であって、解答のための道具ではありません。
📊 端点3点代入法の4ステップ(所要時間の目安つき)
合計2分。座標軸を描く時間は最初から予定に入れない
落とし穴1:交点だけを答えにしてしまう
2直線の交点は候補のひとつにすぎず、片方の製品に全力を注いだ軸上の端点が勝つケースもあります。
AP令和7年秋期問77はまさにこの型で、全振りが正解でした。
候補は必ず「交点+各軸の端点」の3〜4点すべてを代入してください。先ほどの数値例なら、候補は (0, 4)、(4, 0)、(2, 3) の3点。
📊 端点候補の利益比較(Z = 5x + 4y)
端点 (0, 4):製品Bだけを4単位
端点 (4, 0):製品Aだけを4単位
端点 (2, 3):2直線の交点 最適解
この例では交点が最大だが、係数しだいで軸上の端点が逆転する
交点 (2, 3) を求める計算過程を展開する
① 2x + 4y = 16 の両辺を2で割る → x + 2y = 8
② もう1本は 3x + 2y = 12
③ ②−① を計算 → 2x = 4 → x = 2
④ x = 2 を①へ代入 → 2 + 2y = 8 → y = 3
⑤ Z = 5×2 + 4×3 = 22万円
落とし穴2〜4:単位あたり利益・固定費・不等号の向き
落とし穴2は、利益額そのものと「資源1単位あたりの利益」の混同。1個あたりの利益が高い製品でも、時間あたりに直すと劣ることがあります。
複数案を比べるときは、期待値を比較するときと同じで、そろえる分母を先に決めるのが鉄則。
落とし穴3は固定費の引き忘れ。
売上総利益を出して満足したところで、実際に問われていたのは営業利益だった、という取りこぼしが起こります。AP令和7年秋期問77の選択肢構成は、まさにここを狙った作りでした。
落とし穴4は不等号の向きの取り違えで、これをやると定式化選択型(FE平成24年春期問75)は確実に落とします。
筆者自身、交点の値だけを計算して選択肢にその数字を見つけ、即マークして失点したことがあります。
見直したら軸上の端点のほうが利益は上でした。誤答選択肢は「途中で満足した人」を正確に狙い撃ちしてきます。
【確認テスト】線形計画法の理解度チェック
Q. ある工場では、限られた製造時間(月240時間)と原料(月150kg)を使って3種類の製品を生産している。それぞれを何単位ずつ生産すれば利益が最大になるかを求めたい。このとき用いる手法として最も適切なものはどれか。
- A. 移動平均法
- B. 最小二乗法
- C. 線形計画法
正解と解説を見る
正解:C
解説:
製造時間と原料という2種類の上限が示され、そのもとで利益を最大にする生産量の組合せを求める設問です。「限られた資源」と「最大化」の2語がそろったら線形計画法。表の数値を計算する必要はなく、状況の型だけで判断できます。
Aが不正解の理由:移動平均法は時系列データを平滑化して売上などを予測する手法。未来の予測であって、資源配分の最適化ではありません。
Bが不正解の理由:最小二乗法は散布図の点から回帰直線を導く手法。変数間の関係性の把握が目的で、最大化は扱いません。
補足:なぜ本番では4つ目に「定量発注法」が並ぶのか
実際の試験では、この3つに定量発注法を加えた同一4択が繰り返し使われています。在庫が発注点を下回ったら一定量を補充する運用ルールであり、最適化とは無関係。4語をセットで覚えてしまうのが最短ルートです。
○×問題1:制約条件が2本あるとき、最適解は必ず2直線の交点にある。→ ×(軸上の端点が最適になる場合がある。AP令和7年秋期問77がその実例)
○×問題2:目的関数は最大化にしか使えない。→ ×(コストや輸送距離の最小化にも用いる)
線形計画法の関連用語ネットワーク
手法名選択型の設問は、同じ顔ぶれの4択で繰り返し出題されます。
線を引くべき境目は「過去データから未来を推し量る手法(最小二乗法・移動平均法)」「在庫を切らさない運用ルール(定量発注法)」、そして「限られた資源の配分を最適化する手法(線形計画法)」の3分類。
📊 類似手法との比較
| 手法名 | 何をする手法か | 扱うデータ | 試験での典型設問 | 線形計画法との違い |
|---|---|---|---|---|
| 線形計画法 | 制約下で利益を最大化する生産量の組合せを求める | 資源の上限と単位あたり利益 | 最大利益は何万円か/適切な手法はどれか | ― |
| 最小二乗法 | 誤差の二乗和が最小になる回帰直線を求める。回帰分析の基礎計算 | 散布図にプロットされる実績データ | 2変数の関係を式にする手法はどれか | 答えが「直線の式」。資源配分は扱わない |
| 移動平均法 | 一定期間の平均をずらしながら取り、変動を平滑化して予測する | 売上などの時系列データ | 来月の需要を予測する手法はどれか | 答えが「未来の予測値」。最大化を行わない |
| 定量発注法 | 在庫が発注点を割ったら決まった量を発注する在庫の運用ルール | 在庫量・需要変動・調達期間 | 発注点は何個か/適切な在庫方式はどれか | 答えが「発注点と発注量」。最適化ではなく運用 |
| 待ち行列理論 | 到着と処理の確率分布から待ち時間や行列の長さを算出する | 到着率・サービス率・利用率 | 平均応答時間は何秒か | 答えが「待ち時間」。確率を扱う点も異なる |
📊 関連用語マップ
| カテゴリ | 関連用語 |
|---|---|
| 前提知識 | 一次関数と連立方程式/不等式の領域 |
| 関連用語 | ABC分析/パレート図/定量発注法 |
| 発展 | 待ち行列理論(M/M/1)/単体法(シンプレックス法) |
まとめ
📝 線形計画法の要点
・目的関数・制約条件・非負制約の3点セットで立式し、表の1行を不等式1本に読み替える
・最適解は実行可能領域の頂点にしか現れない。交点と両軸の端点をすべて代入して比べる
・手法名選択型は移動平均法・最小二乗法・定量発注法との4語セット暗記で15秒完答できる